腫瘍が2cm以下でもT1ではなく、T2やT3に分類されるケースが実在します。
口腔癌の進行度を評価する国際的な指標として、TNM分類が広く使われています。T(Tumor:腫瘍)、N(Lymph node:リンパ節転移)、M(Metastasis:遠隔転移)の3要素を組み合わせて病期を決定します。 koukuugan(https://www.koukuugan.jp/gun2_stage.html)
T分類だけで病期が決まるわけではありません。N・Mの状況との組み合わせが条件です。 koukuugan(https://www.koukuugan.jp/gun2_stage.html)
T・N・Mの評価をセットで捉えることが原則です。
口腔癌のTNM分類はUICC(国際対がん連合)が策定し、2016年に第8版へ大幅改訂されました。この改訂でT分類に「深達度(Depth of Invasion:DOI)」の概念が新たに盛り込まれ、腫瘍の表面的な広がりだけでなく、粘膜深部への浸潤程度も分類基準となりました。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-18K09763/18K09763seika.pdf)
口腔がん.com – 口腔癌の病期ステージ分類(TNM分類と病期の対応表あり)
T分類は現在、DOIを含む2軸の基準で決まります。以下の表で整理しましょう。 cancer-c.pref.aichi(https://cancer-c.pref.aichi.jp/site/folder6/5403.html)
| 分類 | 腫瘍最大径 | DOI(深達度)|
|------|-----------|--------------|
| T1 | 2cm以下 | 5mm以下 |
| T2 | 2cm以下 or 2〜4cm | 5mm超 / 10mm以下 |
| T3 | 2〜4cm or 4cm超 | 10mm超 / 10mm以下 |
| T4a | 4cm超 or 骨皮質・顔面皮膚浸潤 | 10mm超 or 浸潤あり |
| T4b | 咀嚼筋隙・翼状突起・頭蓋底浸潤、または内頸動脈全周性浸潤 | — |
たとえばDOIを爪楊枝の太さ(約2mm)で考えると、5mmはそれの約2.5倍。10mmは人差し指の爪横幅ほどの深さです。数字だけでなく、臨床でのイメージを持つことが大切です。
T2の条件は特に複雑です。「腫瘍径が2cm以下であっても深達度が5mmを超えていればT2」、かつ「径が2〜4cmでも深達度10mm以内ならT2」という、サイズと深達度の両方が変数になる構造です。 jsoo(https://jsoo.org/wordpress/wp-content/uploads/96104b684c3fa034b200a38b4128f7c5.pdf)
DOIの基準変更は、日本口腔腫瘍学会による訂正通知が出るほど注意が必要な内容でした。正確な基準を知らずに旧版(第7版)の感覚で運用すると、患者の病期を誤って評価してしまいます。 jsoo(https://jsoo.org/wordpress/wp-content/uploads/96104b684c3fa034b200a38b4128f7c5.pdf)
日本口腔腫瘍学会 – TNM分類第8版の訂正通知(T2・T3・T4a基準の正誤表)
DOIはどうやって測るのでしょうか?
DOIの定義は「隣接する正常粘膜上皮の基底膜を結んだ仮想平面から腫瘍最深部までの垂直距離」です。これは腫瘍の「厚み」とは異なります。腫瘍表面が陥凹している場合、腫瘍厚より深達度が小さくなることがあります。逆に外向き増殖(外向型)では表面隆起があっても深達度は浅い場合があります。 www5.dent.niigata-u.ac(http://www5.dent.niigata-u.ac.jp/~radiology/clin/DOI.html)
術前の深達度評価には口腔内超音波(US)とMRIが主に用いられます。研究によれば、生検前MRIによるDOIが病理組織学的DOIに最も近似していたと報告されています。MRIの計測値は病理組織学的値より2〜3mm大きく出る傾向があるため、その分を差し引いて推定することが推奨されています。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001288150157056)
これは使えそうです。
また、病理標本作製時の組織収縮も見落とされがちな誤差要因です。ある研究では平均収縮率が6.8%と報告されており、病理組織学的DOIが実際より小さく出る場合があります。臨床的にT1相当と思っていても、術前MRIで再評価するとT2に変わるケースが実際に報告されています。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390296885737178496)
術前評価の精度が治療方針を左右すると覚えておいてください。
超音波検査は浸潤先端の特定に優れますが、基底膜の仮想平面を設定する手法に標準化されていない部分があり、DOI計測への応用には課題も残ります。複数のモダリティを組み合わせた評価が現時点では望ましいとされています。 www5.dent.niigata-u.ac(http://www5.dent.niigata-u.ac.jp/~radiology/clin/DOI.html)
UICC第7版から第8版への改訂で、一定数の患者が上位のT分類に再分類されました。舌癌427例を対象にした研究では、第8版に基づいて再分類した結果、43例(約10%)がT分類のアップステージとなりました。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001288150157056)
つまり旧基準だと「早期癌(T1)」だった患者が、新基準ではT2またはT3に変わったケースが約10人に1人いたということです。
これは歯科臨床における定期観察において重要な意味を持ちます。過去に「問題なし」と診断されていた患者でも、新基準で評価し直すと治療方針が変わる可能性があります。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001288150157056)
第8版T分類の5年疾患特異的生存率はT1で96.7%、T2で94.3%、T3で78.8%と報告されています。T2とT3の間には約15ポイントの差があり、正確な分類が予後予測の精度に直結します。厳しいところですね。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001288150157056)
さらにN分類にも第8版から「節外浸潤(ENE:Extra Nodal Extension)」の項目が追加されました。N分類も更新されているため、T分類だけでなくNの評価基準も第8版に合わせた確認が必要です。 ir.tdc.ac(https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/4874/1/119_97.pdf)
病期別5年生存率はⅠ期90%、Ⅱ期70%、Ⅲ期60%、Ⅳ期40%という報告があります。T分類を正確に行うことが患者への適切な情報提供と治療介入の早期化につながります。 koukuugan(https://www.koukuugan.jp/gun2_stage.html)
CiNii – 舌癌における新T分類(UICC第8版)に導入されたDOI評価の検討(427例)
日常診療で注意が必要な点を整理します。
まず、腫瘍径が小さくてもリスクが高い部位があります。舌癌では茎突舌筋・舌骨舌筋への浸潤がT2以上の深達度を示唆するとされており、MRI画像でその浸潤を確認することでT分類の推定精度が上がります。また頰粘膜癌では頰間隙脂肪層浸潤、硬口蓋癌では口蓋骨浸潤も同様にT2以上を示唆します。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15105/GZ.0000006985)
病変が「表面的に小さく見える」ことが危険です。
⚠️ 特に注意すべきポイントは以下の通りです。
- 視診・触診で径2cm以下に見えても、深達度が5mmを超えていればT2に分類される
- 外向型腫瘍(外側に盛り上がる型)は表面積が大きくても、深達度が浅い場合がある
- 顎骨浸潤はCTでの骨皮質破壊またはMRIでの骨髄信号異常として確認できる webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15105/GZ.0000006985)
- 神経周囲浸潤(perineural invasion)は予後や治療計画に影響し、三叉神経の評価が別途必要 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15105/GZ.0000006985)
T4a以上になると手術適応が変わります。T4a症例では区域切除術・半側切除術が適応され、T4bでは切除不能となるケースもあります。早い段階でT分類を正確に行い、口腔外科・腫瘍科との適切な連携につなげることが重要です。 keiyukaisapporo.or(https://www.keiyukaisapporo.or.jp/department/shinryoka/shika-kokugeka/oral-cancer/)
また、初診で確認できた白板症や紅板症などの前癌病変のフォローアップ中に急速な変化が起きた場合は、再評価が必要です。前癌病変が癌化する確率は白板症で約5〜17%とされており、定期的な組織診断との組み合わせが推奨されます。これなら問題ありません。
愛知県がんセンター – 口腔がんの病期(T分類・病期別ステージ表)