疫学調査で得たエビデンスを使っていない歯科医は、患者説明の説得力を8割損しています。
疫学調査とは、集団を対象として疾病の発生頻度・分布・原因要因を統計的に調べる調査手法です 。個別の患者を診断・治療する臨床医学とは根本的に目的が異なります。つまり「この患者を治す」ではなく、「この集団でなぜ病気が起きているか」を解き明かすのが疫学の本質です 。 atomica.jaea.go(https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_197.html)
歯周病と口腔の健康疫学に関する日本疫学会の専門資料(参考:口腔の健康と疫学)
日本疫学会ニュースレター「口腔の健康と疫学」(PDF)
主な研究デザインを整理すると以下のとおりです。
jeic-emf(https://www.jeic-emf.jp/public/web_mag/explanation/1021/)
jeic-emf(https://www.jeic-emf.jp/public/web_mag/explanation/1021/)
bellcurve(https://bellcurve.jp/statistics/course/18127.html)
歯科国家試験でも「乳歯齲蝕と受動喫煙の因果関係を複数研究で確認した」という問いが出題されており、研究デザインの理解は国試対策にも直結します 。エビデンスレベルが条件です。 shika-kokushi(https://www.shika-kokushi.com/past-question/115c-016/)
医学研究デザインについての詳細な解説スライド(日本疫学会)
疫学調査で使われる主要な指標を理解すると、論文や調査報告の数値が一気に読みやすくなります。代表的な指標は次の3つです。
niph.go(https://www.niph.go.jp/soshiki/koku/oralhealth/contents/No69_201109.pdf)
たとえば「80歳で20本以上の歯を保有している人の割合」という8020データも、有病率の一種です。令和4年歯科疾患実態調査では、80歳で20本以上を保有する人の割合が51.6%と初めて過半数を超えました 。半分以上ということですね。この数値を患者に提示すると、定期検診の動機づけに効果的です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33814.html)
厚生労働省による最新の歯科疾患実態調査(令和4年)の公式発表ページ
厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」結果概要
疫学調査で最も難しいのが「相関=因果関係ではない」という点です。たとえば「歯周病患者に糖尿病が多い」という観察結果は、「歯周病が糖尿病を引き起こす」とは断言できません。これは疫学の基本的な落とし穴です。
因果関係を判断するための代表的な基準として「ヒルの基準(Bradford Hillの基準)」が知られています。以下の9条件をどれだけ満たすかで因果性を評価します。
shika-kokushi(https://www.shika-kokushi.com/past-question/115c-016/)
「相関があるから治療に使う」という判断は誤りになりえます。これが原則です。歯科診療のエビデンスを患者に伝える際には、研究デザインとこの因果判断基準を念頭に置くことで、情報の精度が格段に上がります。
横断研究のデザイン方法について解説した詳細な資料(地域医療専門家向け)
自治医科大学「横断研究をデザインする」実践資料(PDF)
歯科医が疫学データを実践で活用する具体的な場面は次のとおりです。
また、「疫学調査における歯科の可能性」と題した研究報告では、岩手県二戸郡軽米町(人口6,733人)という小規模地域での歯科疫学データが、地域の健康政策に直接反映された事例が紹介されています 。地域全体が対象という疫学の特性が、こうした地域医療連携にも活かせます。これなら問題ありません。 hotetsu(https://www.hotetsu.com/Wd4t83c1Q8OP45i6hf3m/fV48aS2d49s1.pdf)
厚生労働省の公式統計ページ(歯科疾患実態調査の過去データも確認できる)
厚生労働省「歯科疾患実態調査」統計一覧
12歳だけ見て安心すると、地域の予防設計を外します。
TITLE: dmft指数 計算 式 dmf歯数 被験者数
DESC: dmft指数の計算式は知っていても、D・M・Fの数え方や比較時の注意点まで整理できていますか?
DMFT指数は、永久歯のう蝕経験を集団でみるときの代表的な指標で、計算式は「被験者全員のDMF歯の合計÷被験者数」です。
quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18629)
Dは未処置う蝕歯、Mはう蝕が原因で失った歯、Fはう蝕が原因で処置された歯を指します。
lion-dent-health.or(https://www.lion-dent-health.or.jp/statistics/5-15_dmf/)
つまり平均値です。
たとえば10人の集団で、DMF歯の合計が15本なら、DMFT指数は1.5です。はがき10枚を机に並べ、そのうち合計15本分のむし歯経験が乗っているイメージです。集団の概況を一目でつかめるのが強みですね。
quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18629)
一方で、個人のDMFTと集団のDMFT指数を混同すると説明がぶれます。個人ではD+M+Fの合計本数、集団ではその合計を人数で割った1人平均です。ここが基本です。
quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18631)
計算式そのものより迷いやすいのが、どこまでをD・M・Fに入れるかです。クインテッセンスの解説では、Mには「う蝕で抜去された歯」だけでなく「抜去を指示された齲蝕歯」を含む考え方が示されています。
quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18629)
Mの解釈が盲点です。
このため、欠損歯を見た瞬間にMへ入れるのは危険です。外傷、矯正、歯周病、先天欠如など、う蝕以外の理由が混ざると指数がふくらみます。M歯の原因確認が難しいこと自体が、DMFTの代表的な欠点として指摘されています。
quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18629)
Fも同じです。修復されているからといって、すべてFではありません。う蝕由来の処置歯であることが条件です。う蝕以外の修復まで入れると、予防評価も院内説明もずれます。う蝕由来の確認が条件です。
lion-dent-health.or(https://www.lion-dent-health.or.jp/statistics/5-15_dmf/)
この場面の対策は、集計ミスを防ぐことが狙いなので、記録票の判定基準を院内で1枚に固定して確認するだけで十分です。紙でも電子カルテのメモ欄でもよく、担当者ごとの差を減らせます。これは使えそうです。
検索上位でも混同されやすいのが、DMF歯数とDMFT指数の違いです。DMF歯数は集団全体のDMF歯の合計、DMFT指数はそれを被験者数で割った1人平均です。
quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18631)
結論は別物です。
たとえば20人学級でDMF歯が合計24本なら、DMF歯数は24、DMFT指数は1.2です。数字の桁が違うので、会議資料で単位を書かないと読み手は簡単に取り違えます。人数が変わる比較では特に重要ですね。
lion-dent-health.or(https://www.lion-dent-health.or.jp/statistics/5-15_dmf/)
さらにDMFT指数とDMF歯率も別です。DMF歯率は被検査歯数を分母にした百分率で、DMFT指数とは分母が違います。萌出途中の年齢では両者の動きがそろわないことがあるため、同じ「むし歯が減った」という話でも見え方が変わります。
quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18628)
資料作成では、分母の違いを見出しに入れるだけで誤解をかなり減らせます。院内報告の時間ロスを減らすなら、表の列名を「本数」「1人平均」「割合」で固定するのが早いです。つまり分母が違うです。
ここが実務上いちばん大事です。DMFTは広く使われる一方で、比較条件をそろえないと数値解釈を誤ります。
quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18628)
意外ですね。
まず、DMFの適用は「う蝕以外の原因による喪失歯が少ない30歳以下がよい」とされています。年齢が上がるほどM歯の原因判定が難しくなり、う蝕経験の純度が落ちやすいからです。成人比較に使うときは、数値だけで評価を断定しないほうが安全です。
quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18628)
次に、萌出途中の年齢比較にも注意が必要です。DMFT指数は被験者数を分母にするため、永久歯の萌出がなくても被験者数に入ります。一方、DMF歯率は萌出歯を含む被検査歯数を分母にするため、同じ集団でも経年的な推移がずれることがあります。
quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18628)
比較条件が原則です。
さらに、ライオン歯科衛生研究所の整理では、1993年以前と1999年以降で未処置歯の診断基準が異なると明記されています。厚生労働省の1999年調査概要でも、未処置歯の診断基準が前回調査と異なるとされています。年次推移を見るときに、この注記を落とすと説明の信頼性が下がります。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/0105/tp0524-1-3.html)
診断基準差の見落としを避けるなら、調査表の脚注に基準変更年を1行入れるのが最短です。報告書の突っ込みを減らす狙いなら、参考値と連続比較値を分けて記載するだけで十分です。これは必須です。
参考:定義・計算式・欠点の確認に便利です。
クインテッセンス出版「DMFT指数」
参考:年次推移と診断基準差の注記を確認できます。
ライオン歯科衛生研究所「1人平均DMF歯数(DMFT指数)の年次推移」
DMFT指数は、12歳児の口腔保健評価で特に有名です。WHO/FDIでは2000年までの努力目標の1項目として、12歳児のDMFT指数を「3」にすることが挙げられていました。
quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18629)
数字には背景があります。
実際、日本の12歳児DMFTは大きく下がっています。ライオン歯科衛生研究所の掲載値では、12歳は1993年3.6、1999年2.4、2005年1.7、2011年1.4、2016年0.2、2022年0.3です。30年弱でみると、かなり低水準まで改善しています。
lion-dent-health.or(https://www.lion-dent-health.or.jp/statistics/5-15_dmf/)
ただし、この改善をそのまま「地域の問題は解決」と読むのは早計です。年齢別表では11歳が2022年1.0、13歳が0.7、14歳が0.8で、12歳だけでは拾えない偏りもあります。冒頭の驚きの一文どおり、12歳だけ見て予防設計を決めると取りこぼしが出やすいのです。
lion-dent-health.or(https://www.lion-dent-health.or.jp/statistics/5-15_dmf/)
ここでの実務メリットは明確です。学校歯科や地域歯科保健の説明では、12歳単独ではなく11〜14歳の並びで見るだけで、保護者説明や行政向け資料の説得力が上がります。つまり帯で見るです。
lion-dent-health.or(https://www.lion-dent-health.or.jp/statistics/5-15_dmf/)
独自視点として強調したいのは、DMFT指数は「正しく計算すること」より「同じルールで繰り返すこと」のほうが現場価値が高い点です。式は1行ですが、判定ルールが毎回揺れると経年比較が崩れます。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/0105/tp0524-1-3.html)
数字は嘘をつきません。
特に複数スタッフが関わる健診や集計では、Dの診断閾値、Mの原因確認、Fの扱いを毎回そろえる必要があります。厚労省調査でも診断基準差が推移の解釈に影響するくらいなので、小規模データではなおさらです。ブレを減らすだけで、院内の意思決定はかなり速くなります。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/0105/tp0524-1-3.html)
院内での運用なら、集計前に「Mはう蝕原因のみ」「Fはう蝕由来の処置のみ」「個人値と指数を分ける」の3点をチェックリスト化しておくとよいです。A4の半分ほどの簡単な表で足ります。3項目だけ覚えておけばOKです。
そのうえで、患者説明や地域連携ではDMFT単独で完結させず、未処置歯の割合や年齢帯比較も添えると、予防の優先順位が伝わりやすくなります。指数は入口です。そこから先の解釈まで設計できる歯科医従事者ほど、資料の質でも一歩抜けます。結論は運用差です。