口腔がんの患者を見落とすと、あなたは医療訴訟リスクを抱えることになります。
コンパニオン診断(Companion Diagnostics:CDx)とは、特定の医薬品を使用するにあたり、患者個人の遺伝子変異やバイオマーカーを事前に調べることで、その薬が「効くかどうか・副作用が出るかどうか」を予測するための臨床検査です 。 doctor-vision(https://www.doctor-vision.com/dv-plus/column/trend/companion-diagnostics.php)
個別化医療(オーダーメイド医療)を実現するための根幹技術として、主にがん治療の領域で急速に普及しています 。結論は「投薬を無駄にしない仕組み」です。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%91%E3%83%8B%E3%82%AA%E3%83%B3%E8%A8%BA%E6%96%AD)
CDxの検査対象となるバイオマーカーは多岐にわたります。主な種類を以下に整理します。
- 🧬 遺伝子変異検査:EGFR変異、BRAF V600変異、ALK融合遺伝子など
- 🧪 タンパク質発現検査:HER2タンパク発現量(免疫組織化学染色)
- 🔬 遺伝子コピー数検査:FISH法によるHER2遺伝子増幅の確認
- 🩸 液体生検(ctDNA):血中循環腫瘍DNAの変異解析(Foundation One Liquid CDx)
これらの検査結果に基づき、医師が「この患者にこの薬を使う」という投薬の妥当性を判断します 。単なる診断ではなく、治療選択のための意思決定支援ツールという位置づけです。意外ですね。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%91%E3%83%8B%E3%82%AA%E3%83%B3%E8%A8%BA%E6%96%AD)
日本では独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が体外診断用医薬品または医療機器として承認を行っており、対象医薬品の添付文書には「本剤投与前にコンパニオン診断薬による検査を行い~」という記載が必須となっています 。これが条件です。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/cd/0001.html)
PMDAの2026年5月時点の情報によると、「医薬品の適応判定を目的として承認されたコンパニオン診断薬等」の件数は多岐にわたり、主ながん種別に整理されています 。歯科医として最低限把握すべきものを以下の表で確認しましょう。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/cd/0001.html)
| がん種 | バイオマーカー | 対象薬剤(例) | 検査法 |
|--------|----------------|-----------------|--------|
| 非小細胞肺がん | EGFR遺伝子変異(エクソン20挿入変異を除く) | ゲフィチニブ、オシメルチニブなど | PCR法・次世代シーケンサー pmda.go(https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/cd/0001.html) |
| 胃がん | HER2タンパク | トラスツズマブ、ゾルベツキシマブ | IHC / FISH jsco.or(https://www.jsco.or.jp/Portals/0/images/about/guideline/20251209_1.pdf) |
| 大腸がん | KRAS/NRAS遺伝子野生型 | セツキシマブ、エンコラフェニブ | 変異解析 jsco.or(https://www.jsco.or.jp/Portals/0/images/about/guideline/20251209_1.pdf) |
| 胆道がん | FGFR2融合遺伝子 | ペミガチニブ、フチバチニブ | 次世代シーケンサー jsco.or(https://www.jsco.or.jp/Portals/0/images/about/guideline/20251209_1.pdf) |
| 各種固形がん | MSI-High(マイクロサテライト不安定性) | ペムブロリズマブ(キイトルーダ) | PCR法・NGS answers.ten-navi(https://answers.ten-navi.com/pharmanews/10671/) |
一覧を見るだけで、現代のがん治療がバイオマーカー検査なしには成立しないことが分かります。つまりCDxは抗がん剤の「鍵」です。
口腔がんに関しても注目すべき点があります。口腔扁平上皮がんではEGFR過剰発現が約80%の症例で報告されており、頭頸部がん全体ではセツキシマブなどのEGFR阻害剤がコンパニオン診断とセットで使われるケースが増えています。これは使えそうです。
なお、HER2検査に関しては2013年7月1日付の厚生労働省課長通知以前に承認された乳がん・胃がんの一部検査キットは「みなしコンパニオン診断薬」として扱われており、正式なCDx指定ではない点も覚えておく必要があります 。 jsco.or(https://www.jsco.or.jp/Portals/0/images/about/guideline/20251209_1.pdf)
参考リンク先:PMDAが公開する最新の承認済みCDx一覧(2026年5月14日版)。適応判定・用量調整別に整理されたPDFで実務に直結する情報が得られます。
コンパニオン診断薬等の情報 | PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)
従来の「1つの薬に1つのCDx」という1対1モデルから、複数の薬に対して1回の検査で適応判定できる「医薬品横断的コンパニオン診断」が登場しています 。これは革新的です。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/cd/0001.html)
代表的なものが「FoundationOne CDx(F1)」と「NCC オンコパネル(NOP)」です。これらは次世代シーケンサー(NGS)を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査(CGP検査)であり、1回の検体採取で数百種類の遺伝子変異を同時に解析します。
横断的CDxが重要な理由は以下の3点です。
- 📊 1回の検査で複数薬剤の適応を判定:患者の体内負担と医療コストを同時に削減できる
- 🏥 2019年6月より保険収載:「がん遺伝子パネル検査」として標準治療後の患者に適用(費用は約56万円→保険自己負担3割で約16.8万円)
- ⚠️ 「二次的所見」の問題:検査で偶発的に遺伝性腫瘍リスクが判明した場合の告知義務が倫理的課題として残る
大腸がんのエンコラフェニブでは「F1・G360」、胆道がんのFGFR2阻害薬では「F1・NOP」という形で横断的CDxが認められています 。厳しいところですね。 jsco.or(https://www.jsco.or.jp/Portals/0/images/about/guideline/20251209_1.pdf)
また、PMDAは非小細胞肺がんのEGFR遺伝子変異(エクソン20挿入変異を除く)を対象とした横断的CDxの該当性評価報告書も公開しており、今後さらに対象範囲が拡大される見通しです 。動向を定期確認することが原則です。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/cd/0001.html)
コンパニオン診断が「100%必要」とは限らない、という事実は多くの医療従事者が知りません。これは意外ですね。
免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)である抗PD-1抗体・抗PD-L1抗体は、「PD-L1発現率」や「MSI-High」などのバイオマーカーに基づくCDxとセットで使われる場合がある一方で、一部の適応症ではCDxなしで使用が承認されているケースもあります 。 answers.ten-navi(https://answers.ten-navi.com/pharmanews/10671/)
具体的には、ニボルマブ(オプジーボ)の一部適応とペムブロリズマブ(キイトルーダ)のMSI-High固形がんの適応では状況が異なります。
| ICI薬剤 | 対象バイオマーカー | CDxの要否 |
|--------|--------------------|-----------|
| ペムブロリズマブ(キイトルーダ) | PD-L1発現 | 腫瘍種別に異なる(必要なものあり) |
| ニボルマブ(オプジーボ) | MSI-High | 一部適応でCDx不要 |
| アテゾリズマブ | PD-L1 | 非小細胞肺がんなど一部必要 |
この状況について病理医の間から「CDxの概念が崩壊しつつある」という指摘も出ています 。全患者にICI投与を試みたほうが費用対効果が高い場合があるという逆説的な主張もあるためです。 answers.ten-navi(https://answers.ten-navi.com/pharmanews/10671/)
歯科医・口腔外科医として頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)の患者に関わる際には、PD-L1発現状況がペムブロリズマブ使用の判断材料になることを知っておく必要があります。CDxは「がんの種類ごとに異なる」が原則です。
参考リンク先:免疫チェックポイント阻害薬がコンパニオン診断の概念に与える影響について解説した記事です。なぜ「CDxなし」でICIが使われるのかが分かりやすく説明されています。
免疫チェックポイント阻害薬が崩すコンパニオン診断薬の概念 | 薬事日報ウェブサイト(Ten-Navi)
「コンパニオン診断は内科・腫瘍科の話」という認識は、今の医療では通用しません。口腔がんの罹患数は年間約4,400例(2023年国立がん研究センター推計)で、5年生存率は約60%と決して高くなく、歯科医の早期発見・適切な連携が患者の予後を左右します 。これが実情です。 doctor-vision(https://www.doctor-vision.com/dv-plus/column/trend/companion-diagnostics.php)
口腔がん(主に口腔扁平上皮がん)においてコンパニオン診断が関与する主な場面は以下の通りです。
- 🦷 術前化学療法の選択:切除不能・再発症例でセツキシマブ(アービタックス)使用時、EGFR発現確認が推奨される
- 🔬 頭頸部がんの一次治療:ペムブロリズマブが頭頸部扁平上皮がんの一次治療に承認(PD-L1 CPS≧1が目安)
- 📋 病理結果の読み取り:HER2・PD-L1・EGFR染色結果が記載された病理レポートを理解できるリテラシーが必要
- 🏥 腫瘍科への紹介時の情報提供:紹介先の腫瘍科医が適切なCDx検査を選べるよう、採取した組織の固定方法や情報が重要
腫瘍内科・耳鼻咽喉科・口腔外科が連携する「がん診療連携拠点病院」では、口腔がん症例でもゲノムプロファイリング検査が施行されるケースが増えています。歯科医がCGP検査の存在を知っておくだけで、患者への説明と適切な紹介が可能になります。
また、組織採取の際の重要な注意点があります。コンパニオン診断用の検体はホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)標本で行われることが多く、固定時間が長すぎるとDNA品質が低下してCGP検査が「不適切検体」と判定されることがあります 。検体品質の管理が条件です。 atdd-frm.umin(https://atdd-frm.umin.jp/slide/18/nagai.pdf)
参考リンク先:コンパニオン診断薬の概要と個別化医療・分子標的薬との関係について体系的に解説されています。臨床現場での活用シーンが分かりやすいコンテンツです。
コンパニオン診断の概要と今後の展望について | Doctor Vision
参考リンク先:日本癌治療学会が2025年9月19日時点の最新情報をもとに作成した「治療選択に必要なバイオマーカー」一覧表。がん種別に承認CDxと対象薬剤が網羅されており、実臨床の参照資料として活用できます。
表1-1 治療選択に必要なバイオマーカー | 日本癌治療学会(PDF)