でんぷんのりを加熱してのり状にしても、乾かすと元の粉に戻ろうとするため、壁紙の張り替えに使うと数年後に剥がれやすくなります。
でんぷんのりは、植物由来のでんぷんを水に溶かして加熱することで作られる接着剤です。 原料になるでんぷんは、じゃがいも・とうもろこし・タピオカ(キャッサバ)・小麦など複数の植物から採取されます。 市販のでんぷんのりの多くはタピオカでんぷんを使用しており、透明度と粘着力のバランスが優れている点が特徴です。これは意外と知られていない事実ですね。
参考)http://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-300.html
でんぷんそのものは、グルコース(ブドウ糖)が数百〜数千個つながった多糖類です。 植物は光合成によって二酸化炭素と水から太陽エネルギーを使ってでんぷんを合成し、種子や根・茎にエネルギーとして蓄えます。 じゃがいも100gあたり約17gのでんぷんが含まれており、これははがき1枚(約10g)よりも多い量です。
参考)https://www.weblio.jp/content/%E3%81%A7%E3%82%93%E3%81%B7%E3%82%93
でんぷんには「アミロース」と「アミロペクチン」という2種類の分子構造があります。 アミロースは直鎖状の構造、アミロペクチンは枝分かれした樹状の構造をしており、この比率が粘り気や硬さに影響します。もち米はアミロペクチンの割合がほぼ100%なのでモチモチした食感になり、一方でんぷんのりに向くのはアミロースが多い種類です。つまり「粘り気」の正体はこの分子構造の違いです。
参考)https://note.com/eryr13f/n/n87bb5c3a3e26
でんぷんのりを作る核心は「糊化(こか)」という現象です。 生のでんぷんは水に溶けにくく、人間の体内で消化することもできません。しかし水を加えて60〜80℃に加熱すると、でんぷん分子が水分子を大量に取り込んで膨らみ、粘り気のあるのり状になります。これを「α(アルファ)化」と呼びます。
参考)https://flour.empacede.co.jp/sciences/starch-science/
糊化が起きると、でんぷん内の結晶構造が崩れて分子がバラバラになります。 このバラバラになった状態が「くっつく力」を生み出します。具体的には、紙などの表面の細かい凹凸にでんぷん分子が入り込み、乾燥すると固まって接着力が発揮されます。長さ約1μm(マイクロメートル)というミクロの世界での話です。
参考)https://note.com/eryr13f/n/n87bb5c3a3e26
逆に、糊化したでんぷんを放置すると「老化(β化)」が起きます。 老化とは、でんぷん分子が再び整列して水分を放出し、硬くなる現象のことです。冷えたご飯が硬くなるのはこのためです。障子張り替えでのりが経年劣化して剥がれやすくなる原因もここにあります。老化が基本です。
参考)http://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-300.html
理科の授業で最もよく登場するのが「ヨウ素でんぷん反応」です。 でんぷんにヨウ素液を垂らすと、でんぷんのらせん状構造の中にヨウ素分子が入り込み、青紫色〜黒褐色に変化します。この色の変化は、でんぷんの存在を確認する最もシンプルで確実な方法です。
参考)https://sennan-shindachi.jp/pages/9?detail=1&b_id=197&r_id=414
ヨウ素液は市販のうがい薬(ポビドンヨード含有)を水で20倍程度に希釈して代用できます。 ヨードチンキなら100倍に薄めて使います。でんぷんの種類やヨウ素液の濃度によって、青紫色から黒褐色まで反応の色が異なります。 事前に確認しておくことが大切です。
参考)https://area18.smp.ne.jp/area/card/12788/3GyleH/M?S=qgmht0ngrd0k
| 食品 | でんぷん含有 | 反応色 |
|---|---|---|
| じゃがいも・さつまいも | ✅ 多い | 濃い青紫〜黒 |
| ご飯(炊いたもの) | ✅ 多い | 青紫色 |
| パン・うどん | ✅ 多い | 青紫色 |
| 砂糖 | ❌ なし | 変化なし(褐色のまま) |
| 塩 | ❌ なし | 変化なし |
| ニンジン(生) | △ 少ない | 薄い反応 |
ヨウ素液は日光(紫外線)に当たると変質するため、褐色瓶に入れて冷暗所で保存します。 また、種子の断面にヨウ素液をつける際は、皮をむいて細胞の断面を作るのが正しい手順です。表皮細胞の細胞壁があると内部に染み込まないためです。これは実験の失敗を防ぐための重要な知識です。
参考)https://area18.smp.ne.jp/area/card/12788/3GyleH/M?S=qgmht0ngrd0k
でんぷんのりを作って実際にヨウ素液で確認する実験を行う場合は、粉のでんぷんを水に溶かしてアルコールランプで加熱します。 白く濁っていたでんぷん水が、加熱とともに透明な粘り気のある液体に変わる様子を観察できます。この変化がα化の視覚的な証明です。
参考)https://www.eikoh-sciencelabo.com/blog/2020/12/5612_20.html
参考:ヨウ素でんぷん反応の詳しい実験方法と手順(京都市教育情報総合センター)
https://www.edu.city.kyoto.jp/science/online/labo/32/index.html
でんぷんのりは、中学理科の「消化」の単元でも重要な役割を果たします。 でんぷんのりにだ液(唾液)を加えると、だ液に含まれる「アミラーゼ」という消化酵素がでんぷんを分解します。 分解後はヨウ素液を加えても青紫色に変わらなくなります。
参考)https://benesse.jp/kyouiku/teikitest/chu/science/science/c00638.html
アミラーゼは体温に近い37℃前後で最もよく働きます。 冷たい水で薄めたり、熱湯を加えたりすると酵素の働きが低下または停止するため、実験では温度管理が重要です。これが実験条件を変える理由です。
参考)http://motivateyour.life.coocan.jp/shouka.htm
この実験は「でんぷんのりを使うと消化の有無が目で見てわかる」という点で優れています。 授業では、だ液を入れたものと入れていないものを比較することで、消化とは水に溶けにくい栄養素を水に溶けやすい別のものに変えるプロセスであることを理解します。
参考:でんぷんが糖に変わる理由と中学理科での解説(ベネッセ定期テスト対策サイト)
https://benesse.jp/kyouiku/teikitest/chu/science/science/c00638.html
でんぷんのりが接着剤として使われてきた歴史は非常に古く、平安時代から障子や和紙の張り替えに利用されていました。 天然素材100%で化学物質を含まないため、アレルギーへの配慮が必要なリフォームや、子どもが触れる壁紙の貼り付けに適しています。
参考)https://oeste.jp/kodawari/tapioka/
障子張りにでんぷんのりを使う場合、のりを塗った後すぐに貼り付けることが重要です。 でんぷんのりは乾燥(水分の蒸発)によって固まる仕組みのため、塗布後に時間を置くと接着力が落ちます。逆に言えば、貼り直しがしやすいという特性もあります。これは使える知識です。
参考)http://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-300.html
でんぷんのりは温度や湿度の変化に弱く、多湿環境ではカビが生えやすいデメリットがあります。 浴室周辺や結露が発生しやすい窓際のリフォームには不向きです。使う場所を選ぶことが条件です。また、強い粘着力が必要な箇所(重量物の固定など)には向かず、そういった用途には合成系の接着剤と使い分けるのが現実的です。
参考)http://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-300.html
でんぷんのりをリフォームで活用するときの一つの目安として、面積あたりのコストを比較すると市販の壁紙用のりと大差なく、むしろ天然素材という付加価値が得られます。自然素材リフォームや古民家再生に興味がある場合は、地元の工務店や自然素材リフォームを専門とする業者に相談する際に「でんぷんのり対応か」を確認するのが一歩です。
参考:でんぷんのりの成分・障子への使い方(近畿化学協会Q&Aページ)
http://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-300.html